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パープルスカイ

月夜の花嫁

Duvet

人物
 大久保和馬(32)写真家
 鷺宮圭蔵(69)酒造家
 鷺宮優(25)圭蔵の娘
 鷺宮千鶴枝(60)圭蔵の妻


○山間の村・全景
   山に囲まれた盆地に小さな村が見える。

○路上
   両脇に古い民家が立ち並ぶ村。
   フィルムカメラを構える大久保和馬(32)、青々とした山を背景に村の写真を撮っている。

○カメラの中
   山々の風景が切り取られる。
   古い民家の瓦越しの山。
   道を挟む民家から覗く山。
   舗装されていない道の端に写真が落ちているのが見える。

○路上
   カメラを降ろす大久保。
   写真の方へ歩いて行く。
   写真を拾い上げ、土埃を払う。
   セピア色の古い写真。白い着物を着た鷺宮優(25)が映っている。
大久保「綺麗な人だ」
   大久保、服の内ポケットに写真を仕舞い、道を歩き出す。

○鷺宮家前(夕)
   白壁の塀に囲まれた立派な屋敷。
   門を前に山との写真を撮る大久保。
大久保「これはいい出来だ」
   カメラを降ろし、屋敷を見ながら満足げに笑う。
圭蔵の声「うちになにか用ですかな?」
   大久保、驚いて振り返ると紺の着物を着た鷺宮圭蔵(69)が立っている。
   大久保、頭を掻いて、
大久保「いやこれはすみません。あまりに立派なお屋敷なもんで、つい一枚」
   首からかけているカメラをちょいと持ち上げる。
   圭蔵、笑みを浮かべて、
圭蔵「ははっ、うちは代々ここで酒蔵をやってましてね。どうです、お客人さん。ちょいと中を見ていきますか?」
大久保「いいんですか!」
圭蔵「ええ、外の人が来ることは珍しいですから」
   大久保の前を行く圭蔵。
   門の中に入っていく二人。

○同・酒蔵内(夕)
   大きな樽がいくつも置かれている。
   その写真を熱心に撮る大久保。
大久保「はあ、立派なもんですね」
圭蔵「年季が入っているでしょう? ここは100年以上の歴史がありますから」
大久保「そりゃあ凄い」
   樽を見上げて語る圭蔵を撮る大久保。
   撮られたことに気づき、大久保の方を
   向いて笑う圭蔵。
圭蔵「大久保さん、良ければ一杯飲んでいきませんか?」
   カメラを降ろす大久保。
   大袈裟に手を振る。
大久保「そんな、申し訳ないですよ」
圭蔵「今日にうってつけのいい酒があるんですよ」
大久保「じゃあ一杯だけ」
   大久保、手でちょっとのジェスチャーをしてへらへら笑う。

○同・客間(夜)
   空になった膳を挟んで酒を交わす大久保と圭蔵。
   真っ赤な顔の大久保。空になった徳利が何本も倒れている。
圭蔵「大久保さん、もう一杯どうです?」
大久保「もういけませんよ圭蔵さん」
   がははと笑う大久保。
圭蔵「そう言いなさらないで」
   大久保のお猪口に酒を注ぐ圭蔵。
大久保「ほんとに帰れなくなっちまいますって!」
圭蔵「うちに泊まっていけばいいじゃありませんか」
大久保「いやいやそんな」
   障子を開けて座敷に入ってくる鷺宮千鶴枝(60)。
千鶴枝「湯殿の準備はできましたので」
大久保「えぇ?」
   頭を掻いて笑う大久保。

○同・離れ(夜)
   布団の敷かれた離れの部屋。
   浴衣を着た大久保、大の字になって布団に倒れる。
   目を閉じて満面の笑みを浮かべる。

○同・離れ(深夜)
   布団に包まり眠っている大久保。
   離れの戸が開き、人影が入ってくる。
千鶴枝の声「いつまで寝てらっしゃるんです?」
   大久保の肩を叩く手。
   大久保、目を擦り、身体を少し上げると声を掛けてくる千鶴枝が目に入る。
大久保「どうしました、こんな夜更けに?」
千鶴枝「何を言ってらっしゃいますの。式の支度が整いましたのでお迎えにあがったのです」
   千鶴枝に体を起こされる大久保。
大久保「式……?」
千鶴枝「そんな格好では式には出られません。さぁこちらへ」
   戸を開け放って大久保の手を引く千鶴枝。戸の外には大きな満月。

○同・和室(深夜)
   灯篭の明かりで照らされた室内。
   千鶴枝と使用人らに紋付を着させられている大久保。
大久保「あの……これは一体どういう?」
千鶴枝「さぁ仕上がりました。皆さん待っておりますよ?」
   大久保に笑いかけ、廊下へ出てしまう千鶴枝。
   きょろきょろと周りを見回す大久保。
   笑顔で見守る使用人たち。
千鶴枝「さぁ、こちらへ」
   廊下で大久保を呼ぶ千鶴枝。

○同・奥の間(深夜)
   閉められたふすまの前に立つ大久保。
   ふすまの横に正座で座る使用人たち。
   大久保の斜め後ろに座る千鶴枝。
千鶴枝「さあ」
   その声でふすまが開けられる。
   ずらっと部屋の両脇に座る村の男達。
   奥の端に座る圭蔵。
   一番奥に白無垢の優が座っている。
   顔を上げる優。驚く大久保。
   目が合い、微笑みかける優。
千鶴枝の声「どうぞ」
   振り返る大久保。
   頭を下げている千鶴枝。
   もう一度優の方を見る大久保。
   ごくりと喉が鳴る。
   村の男達に見つめられながら中央を歩いて行く大久保。
   優の前までたどり着き、立ち止まる。
   優、顔を上げ大久保に微笑む。
   大久保、顔がほころび、おずおずと優の横に座る。
圭蔵「それではこれより、娘、鷺宮優と婿、大久保和馬の婚礼の儀を執り行います」
   深く頭を下げる圭蔵。
   それに倣って頭を下げる男達。
圭蔵「このよい月夜にこのような好青年を婿として迎え入れられることを感謝申し上げ
ます。今宵は皆さまお楽しみください」
   使用人たちが膳を持って入ってくる。
   横を見る大久保。優の横顔。
大久保「驚きましたが、まさか旅先でこんな器量のいい娘さんを迎えられるなんて」
優「さようでございますか」
   照れ笑いをする大久保。
   伏し目がちに大久保に顔を向ける優。
大久保「どうかなさいましたか?」
優「いえ、なんでもございませんわ」
   悲し気に眉を寄せて笑う優。

○同・外(深夜)
   煌々と光る月明かり。

○同・奥の間(深夜)
   真っ直ぐと前を見つめる優。
   体を強張らせ黙っている大久保。
優「大久保さん、とおっしゃいましたか。ごめんなさい、やっぱり私、あなたを連れて
行く気にはなれません」
大久保「え?」
   スッと立ち上がる優。

○フラッシュ
   道端に落ちていた優の写真。

○同・奥の間(深夜)
   ハッとして大久保、優を見上げる。
優「私には待っている人がいるのです」
   ふすまの方に歩いて行く優。
   やれやれと頭を振る圭蔵。
圭蔵「今回もダメだったか」
   優の方に手を伸ばす大久保。
   大久保を引きずって廊下へ連れて行く男達。
大久保「おいっ! なにすんだ!」
   大久保の方を振り返る優。角隠しで目元が隠される。
   赤い紅の口元が弧を描く。

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